小規模システム構築のススメ

システム導入には大金がかかる?
確かに少なからぬ費用がかかります。
例えば中小規模の商社でシステム導入を行なう場合を考えてみましょう。システム化の対象業務はどのようなものになるでしょうか?
得意先及び仕入先リストの管理、取扱商品リストの管理、在庫管理、営業日報管理、受発注伝票管理、売掛・買掛管理といった業種特有の業務に加え、給与(人事)、会計経理といった間接業務も考えるとしたら、それは確かにあっと言う間に数千万円規模の費用を必要とする大プロジェクトになることは間違いありません。
しかしながら、短期間に1千万円を超えるようなシステム開発費を投入することは、多くの中小企業で現実的ではありません。
ダブルズでは焦点を絞り込んだ議論を経た、コンパクトなシステム作りをお勧めしています。

今「この瞬間に解決したい問題は何であるのか」を考える
誰にとっても業務の効率向上を計り収益の増加につなげたいと考えるのは当然の事です。では、今あなたの会社で最も非効率的である業務は何でしょうか?
例えば、営業担当から商品の在庫を確認する電話が入った時、注文見込み数量に対する現在の在庫数量では不足すると考えられる場合、いつまでにそれが満たされるのかを調べるのに手間取って即座に返答できないことがあるのであれば、直ちに在庫管理業務と受発注伝票管理業務をシステム化し、現在過去未来の任意の時点での在庫を即座に照会できる仕組みを作るべきです。それにより、納期の回答が先延ばしになることによる顧客離れを防止する策の一端とすることができます。
あるいは、売上維持・増強の対策を講じる為の現状分析と資料作りが煩雑で、円滑な営業会議推進のネックになっているのならば、得意先及び仕入先リストの管理、取扱商品リストの管理と受発注伝票をデータ化できるシステムを構築する考えもあります。それにより、売れ筋商品は何であるか、逆に減少傾向にある商品は何か、更に取引が遠のいている(取引額が減少傾向にある)得意先の抽出を行なうことで、営業戦略の基礎資料とすることが可能になります。データ量があまり多すぎなければ、このような仕組みは例えばExcelを用いて構築してしまうことも可能です。

多くの中小企業の場合、例えば会計システムには「◆◆奉行」「▲▲▲会計」というような市販のソフトウェアを利用しているケースを多く見ます。給与関係も同様です。それはそれで担当者が慣れているシステムを当面は使い続けることも一つの選択です。システム導入を考えるとき、何もかも新しくしなければならないわけではないのです。

その上で、上記のような緊急性の高い部分を集中的に補強するという考え方がより現実的で、実際に効果が出ている事が多いのです。テーマを絞って集中的なシステム化を行なうことにより、開発期間を短くコストを低く、しかも結果を早く見ることができるのです。数カ月から半年、費用は100万単位、場合によっては数十万のオーダーで結果が出る場合もあります。

パッケージソフトを使えば安く上がる?
前述の会計ソフト、給与管理ソフト等をはじめ、在庫管理や生産管理向けのパッケージなど、業務用パッケージソフトはいくらでも存在します。価格もそれこそピンキリです。更にはERPパッケージソフトと言われる、企業資源を統合的に管理し、部門間で横断的に情報を共有することにより、部門間の連携効率もアップさせることを目的とした大規模なパッケージもあります。
それぞれのパッケージには得手・不得手があり、いくらかの修正(カスタマイズなどと言います)を行なわなければ、買ってきたものをそのまま使うことは難しい場合がほとんどです。会社によって業務のあり方はそれぞれだからです。
またERPパッケージを採用するような場合には、導入に当たって数ヶ月から場合によっては1年以上にも及ぶ、既存業務プロセスの解析と標準化のためのコンサルティングを受ける必要があります。

このように、自分の会社にピッタリとフィットしたパッケージが見つかれば安上がりですが、たいていの場合はパッケージと言っても「骨」になる部分だけがあって、細部はそれぞれの会社に合わせての作り込みが必要になるケースか、あるいは業務の方をそのパッケージに合わせて変えなければならないケースが少なくありません。100万円のパッケージを購入したうえで、それのカスタマイズ費用が300万円だった、というような笑い話のようなことが現実にあります。それでも、その業務のためのシステムを無から作り上げるための費用が500万円かかるのであれば、トータルでは100万円のコスト削減になると考えることが出来れば、それはそれで幸せなことです。
ただ、いずれの場合でも忘れてはならないのは、そこで働く人に関わる問題です。業務の手順がシステムの導入によって以前とは変化することは間違いなく、場合によっては事前に教育訓練を行なわなければスムーズな移行が望めないこともあるでしょう。それに関わる教育訓練費も必要です。何よりも、システム導入後の人的負荷が導入前よりも増大するようでは、システム化を行なった意味がありません。

小規模なシステムから始めることのうまみ
現在はほとんどの業務が手作業で、これからシステム化を考える会社であれば、さまざまな要素で構成されている現状の業務を一気にシステム化することの労苦がどれだけであるか、想像に難くないと思います。既に業務の大半でシステム導入が済んでいる会社にとっても、それは同じです。パソコンのOSがサポート対象から外れることにより、業務ソフトの総入れ替えが必要になる事態は過去にも一度ならずあったはずです。

限られた資金と時間を使って効果を上げるためには、経営層と業務の担当者双方の目が届く範囲での改善策を段階を踏んで実行することが大事です。前述の通り、既存のパッケージを用いることが近道の場合もあります。ただ、いずれにしてもシステムを導入して職場を近代的にする事自体が目的ではありません。機械ができることは機械に任せ、働き手である人間が人間らしい業務を遂行できる環境を構築することで、更なる創意工夫が生まれ、次の進歩へとつなげる事こそが重要です。
いま見えている課題をひとつずつ着実に解決し、目に見える形で結果を出す事。その積み重ねこそが企業をより進歩的に見せる原動力なのです。小さな一歩であっても、まずは踏み出すことが全ての始まりです。

システムを導入することで新たな発見がある
更新にしても新規導入にしても、システムを導入して(あるいは更新して)初めて明らかになる問題は必ずと言ってよいほど出現します。それによってシステムを手直しするか、場合によっては業務の手順を変更するなどの微調整が必要になるのですが、実はこのプロセスがその企業にとって大変重要である場合が多いのです。これまで何気なくこなしていた個別の業務が、この見直しによって格段に正確性を増したり効率が向上するという場面を幾度となく目にしてきました。
ある業務と他の業務の関わりが改めて顕在化する場合もあります。そこで重複していた作業をまとめたり、より効率の良い手順に改めるなどのきっかけを得ることもあります。

このように、システム導入という課題を攻略するには、単調にホームランのみを目指すのではなく、渋い内野安打、盗塁というような機動性を意識して付き合って行くことも大切です。
なぜならば、システムというものは導入して稼働を始めればそれで完成、というものではないからです。
何年も先まで、場合によっては10年単位の長期間、毎日それを使い続けることになるからです。その中で不具合があればそれを修正し、業務内容に変化が生じればシステムもそれに合わせて手直ししなければなりません。情報通信技術の目まぐるしい進歩は、私たちのシステムがそれに適応して行くことも要求します。人間の側の体制が変化することもあるでしょう。


既に細部までシステム化が浸透し、それ自体が業務の標準となっているような大企業であれば話は別ですが、日々創意工夫が求められる中小の現場では、個々の業務における効率アップと省力化が常に求められます。
一度に巨額の開発費と期間を捻出することなく、レスポンスの良い、扱いやすいシステムをそれぞれの現場に安い費用で配置し、相互の連携を視野に入れながら拡張していく手法は、このような要求にマッチします。
長い目で見て付き合って行かなくてはならない相手だからこそ、得体の知れない怪物にしてしまってはいけないのです。